エレナを追って廊下を駆けるも、時間が経ってしまったからか、彼女はなかなか見当たらなかった。

教室にもいないし、荷物もすでに残っていない。

連絡も入れたが、メッセージアプリは未読のままで、正直彼女がどこにいるのか見当もつかなかった。

もう家に帰ってしまったことも考えられる。


そういえば、同じく学級委員になった颯介くんはあの時一緒じゃなかったけど、定例会議の後ですぐに別れてしまったのだろうか。

行先を知らないか確認したかったけど、彼の荷物もすでにそこにはなくて、恐らくサッカー部の練習に向かった可能性が高い。

エースの遅刻がどうとか言ってたしね……。


仕方なく私も自分のカバンの紐を掴むと、そのタイミングでもう一方の手に持っていたスマホがメッセージの通知音を鳴らした。

エレナかと期待してすぐに画面を確認すると、送信者は白亜くんだった。彼には悪いけど、少しだけ落胆してしまう。


《仕事の件で呼び出されたから一緒に帰れなくなった。クロもこれからバイトらしいから、先に帰ってもらえる?教室の戸締りはしておくから気にしなくていいよ》


ああ、はいはい。

私は《大丈夫!二人とも頑張ってね》と返信して、そのまま誰もいない教室を出る。


念のためエレナがいないか周囲を見回しながら、少し遠回りして昇降口へ向かった私は、1階の渡り廊下の途中でふと足を止めた。


「――調子……痛い目に……」

「――れるもんなら……」


どこかで聞き覚えのある声が聞こえた気がして、中庭を振り返る。

その奥、こちらからは死角になっている端のほうから人の気配を感じ、私は息をひそめながらも、そっとその現場に近づいてみた。


――あ!

物陰から覗き見ると、三人の男子生徒に囲われて隅に追いやられている見知った青年の姿がそこにはあった。


彼は、数日前に黒芭くんと二人で帰宅したあの日、校門前で私に声をかけてきたピンク髪の1年生――琉唯くんだった。