って、ちょっと待って?

桃園櫂――?

モモゾノ……?


「もしかして、エレナの……お兄さん?」


その苗字にヒントを得て隣の白亜くんに尋ねると、彼は声を発さない代わりに、小刻みに2,3回ほど首を縦に振った。


な、なるほどーー……。

確かにエレナは以前、お兄さんがいるようなことを話していた気がする。

まさか同じ学校内にいたなんて、聞いてはいなかったけれど。


って、さっきダブって2回目がどうとか……。

私は冷静にお兄さんの発言を振り返り、その真意を思考した。


「え、留年したってこと?」

「留学先から戻ってこねーとは聞いてたけど……相変わらず自由過ぎんだろ、アイツ」


半ば独り言にもとれる私の問いかけにそう答えた黒芭くんは、理解不能と言わんばかりに呆れ顔で視界の先の彼を見やった。


「――というわけでぇ、今年度の前期の委員長は俺、副委員長はそこにいる仁礼サユリ先輩が務めてくれるので~、皆は大船に乗ったつもりで……」

「櫂先輩。仁礼サユリではなく、仁礼早月(にれ さつき)です!いい加減、覚えてください!」

「ええ!?ご、ごめん仁礼ちん!早月!早月ちゃんね!皆、とにかくよろしくね!!」


開始直後はピリピリとした緊張感があった教室内が、エレナのお兄さん――櫂先輩の登場により明らかにおかしな空気となっている。そのせいで、1年生を含めてその場に集まった生徒たちは皆困惑を隠せずに呆然としていた。

だけど次第に表情は和らぎ、櫂先輩の陽気な雰囲気に皆が呑まれ始めていく。


な、なんというか、どうにも気が抜けるというか……。

エレナとはまた違う意味で、個性が強く豪快な人だ。

独特な人柄の櫂先輩に乱されながらも、どうにか仁礼先輩の真っ当な進行により1回目の定例会議は無事、幕を下ろした。