「――――!!」


照明の消えた真っ暗な部屋の天井に、俺は手を伸ばして目を覚ました。


「……夢か」


じっとりと嫌な汗を額に感じる。



命の責任。

当時幼かった俺には、それが一体どういうことなのか、まるで理解できていなかった。


言い訳なんてできない。

俺は、俺の身勝手な行動をきっかけにして、マニラという尊い命を失った。いや、奪ったんだ。



「……」


夕方、血相を変えて自転車の荷台から飛び降りるあの女の後ろ姿が、当時の俺に重なって見えて。なんだか凄く、不愉快だった。

慌てて追いかけると、そこには呼吸の浅い一匹の猫がいた。

女は、迷いのない真っすぐな眼差しで“猫を助けたい”そう言った。


もう動物に、何かの命に、関わりたくなんてなかったのに。

あの女があの時の馬鹿みたいな俺と同じ目をしていたから。


「はぁ……」


俺は明かりをつける気にもなれず、片腕を汗ばんだ額の上に置いて、深く息を漏らす。


マニラは俺を恨んでいるだろうか。

あの時の最後の決死の鳴き声は、彼女の命を無責任に奪った、俺への怒りの叫びだろうか。


こめかみに流れる汗を拭う気力もわかず、俺は真っ暗な闇に呑まれるように、開きかけた視界をもう一度閉ざして、そっと小さく息を吐いた。


~black side END~