祖母であるなつ恵お祖母ちゃんに聞いていた通りの名前を耳にし、ここに来てようやくほっと胸を撫で下ろす。

私は、朗らかとした優し気な印象のその男性の手を、緊張気味にゆっくりと握り返した。


「は、初めまして。咲田菜礼です……」

「うん、よろしくね。移動で疲れただろう。まずはお茶でも用意するから椅子に掛けるといいよ」

「ありがとうございます」


その流れで、先ほど出迎えてくれた息子さん――白亜くんが、私のキャリーケースを再度手に取って言った。


「菜礼さん、荷物はこれだけで大丈夫?部屋に運んでおくね」

「あ、はい!ありがとうございます」

「僕たち、同い年だよ。4月で高2。敬語じゃなくていいよ」


白亜くんはくすりと爽やかな笑みをこぼし、私のキャリケースを抱えて螺旋階段を上がって行く。

近しい年頃には見えたものの、同い年だったとは。同級生にしては、その言動は私よりもずっと穏やかで落ち着いて見える。


「そういえば、クロはまだ帰ってないのかな」

「あの子のことだから、部屋でゲームでもしてるんじゃない?」

黒芭(くろば)は部屋にいるよ、父さん。菜礼さんの押したチャイムに応答したの黒芭だし」


私にアイスティーとお茶菓子を用意してくれた奥様――凛々子さんと、2階に上がっていった白亜くんが聖さんの問いかけに答える。


どうやら、最初に私が下向きな印象を受けてしまったチャイム越しの声は、白亜くんのものではなかったらしい。

ああ、どうりで……。なんて、またしても失礼なことを考えてしまう。