――ごめんね、ユキさんはひたすら俺を慰するように、謝っていた。


結局、俺が何度首を振っても、涙を流しても、それは仕方なかったんだと思う。


動物、特に猫には相性がある。

ユキさんの飼っていた先住猫のベッキーは、生まれた頃から一緒だったスモモ以外の動物には警戒心が強く、マニラを保護していたその1か月の間だけでも、ストレスを身に受けて何度か体調を崩しているようだった。

なるべく2匹を一緒にしないように、ベッキーの行動圏が狭まり、彼女は窮屈そうな生活を強いられているようだった。

マニラが元気になったら、ユキさんは本来の家族であるベッキーを守るため、マニラを里親に出す決意をしていたのだと思う。


「どこの家に行くの……?マニラ、遠くに行っちゃうの……?」

「私の知り合いに、長く飼っていた猫ちゃんが少し前に亡くなって寂しがっている人がいるの。その人は猫のお世話にも慣れているし、その人にお願いしようと思うんだ。残念ながらお仕事の都合でもうすぐ遠くに行っちゃう人だから、なかなか会えなくはなっちゃうんだけど……」


ユキさんの知り合いの女性は、1週間後に遠方へ引越す予定があるらしく、その転居当日にユキさんが彼女の今の家までマニラを送り届ける約束らしい。

猫は環境の変化を嫌がる傾向がある。だからこそ、移動の回数を最小限に抑えて、早めに新居と新しい飼い主に慣れてもらいたい、そういった配慮によるものだった。


俺はひとしきり泣いた後、マニラの幸せのためならと自分に言い聞かせて、せめて最後にマニラの見送りに行きたいと申し出た。



これが――

最悪の決断になるとは、知りもせず。