「黒芭くん、今日はね、キミに大切なお知らせがあります」


1か月くらい経った頃だろうか。

俺がいつものようにその女性――ユキさんの家に行って、少し大きくなった子猫を撫でていた時だった。

ほぼ毎日世話を焼きに来ている俺に猫はすっかり懐いていて、気を許した顔でその日も俺の膝の上で丸くなっていた。


見慣れたお茶とお菓子を持って縁側にやって来たユキさんが、おぼんごとそれを床に置いて、俺の隣に座った。


「なに?ユキお姉ちゃん」

「その猫ちゃん――マニラはね、新しい家族が決まったの」


いつも遊びに来るたびにユキさんが出してくれたミルクキャンディの名前、マニラ。

マニラをもらうたびに、その飴玉の袋をクンクンと嗅いで興味を示す猫のことを、俺はいつしかそう呼ぶようになっていた。


「新しい、家族……?でも、マニラはユキお姉ちゃんの家のペットなんでしょ?」

「残念ながら、うちにはすでにベッキーとスモモがいるから、これ以上は飼えないのよ」


ベッキーは、ユキさんの家で飼われていた先住猫で、スモモは犬の名前だった。

俺はてっきり、マニラもずっとこの家で暮らしていくものだと思っていたから、ユキさんの言葉を聞いてもすぐに納得ができず、「どうして?」「イヤだ」次第に涙で揺れ始める視界を指で拭いながら、何度も彼女に詰め寄った。