「じゃあその……ボクが、隠れてもいい?ボク、かくれんぼ結構得意だし」

「ふーん……。それじゃ、僕が鬼ってことね」


白亜は了承すると、「いーち……にい……さん……」何の前触れもなく突然カウントをコールし始めて。

「ちょ、ちょっと!早いよ、白亜!も、もうっ」


俺は慌てて駆け出して、隠れる場所を探して公園内を走り回った。

そして、子供ひとりが入り込めるくらいの隙間を開花前のツツジの奥に見つけて、身を屈めながら潜り込む。


その矢先だった。


「ミャー」


1匹の小さな可愛らしい子猫が、怪我をしたのか地面に伏せっていて、まるで俺に助けを求めるように潤んだ瞳を向けていた。

俺はかくれんぼのことなど忘れて、咄嗟にその猫に駆け寄り、そっとその小さな体を抱きかかえる。


記憶の限りでは、まだ生後1か月くらいだったと思う。怪我の具合は、決して死にかけるような重傷ではなかったものの、放っておけば、いずれは力尽きて死んでしまうかもしれないと思った。


「あ、白亜!」

「?どうしたの。かくれんぼなのに隠れてないじゃ……って、何それ」

「猫だよ!向こうの奥で怪我してたんだ!助けてあげなきゃ!」

「……」


白亜は俺の手元に目線を落として、しばらく口を閉ざす。

そして慌てふためく俺とは対称的な、冷静で冷ややかな眼差しを向けて言った。


「どうしてキミが助ける必要があるの?」

「ど、どうしてって……。怪我してるんだよ!放っておいたら可哀そうだよ」

「でも、キミには関係ないのに。猫の命がそんなに大事?それで懐かれて、キミは面倒を見れるの?」


そんな白亜の心ない言葉は、当時の俺の浅はかな怒りを買うには十分だった。

俺はどうしたって、この猫を助けてあげたかった。


「もういいよ!ボクがなんとかするから!!」


「面倒なことになるからやめた方がいい」そう言って俺の震える肩に手を伸ばす白亜を振り払って、俺は駆け出した。