――え?

背中を離し、声のした方へと振り返る。


そこには、160cm台後半くらいの小柄な青年が立っており、私を射るようにじっと見据えて私の反応を待っている。

緩めのパーマがかった淡いピンク髪がよく似合う、まるで小動物のような可愛らしい顔立ちの青年だった。

そんなベビーフェイスとは裏腹に、制服の上に羽織ったパーカーのフードから覗く瞳は、どこか殺伐としていて何となく乾いた印象を受ける。


「えっと……?」

「白亜も一緒じゃないみたいだし、あのイトコとかいううるさい女もいないよね。教室では一緒だったみたいだけど」

「えっ……」


白亜くんやエレナのことを知っていそうな口ぶりに思わず顔が強張った。

“教室では”という言葉が指す意味は――おそらく、さっき感じたあの謎の気配だ。背中を刺すような確かな視線を感じた気がしたが、その正体は彼だったらしい。

でも私とは初対面だし、一体彼は何者なのだろうか。



「――琉唯(るい)?」


その名前を本人に問う前に、予想外なところから答えが返ってきた。


私と“琉唯”と呼ばれた目の前の彼が同時に振り向いた先には、自転車を引いた黒芭くんが訝し気に目を細めて立っている。


「……!クー!!」

「おわっ……!お前、急に飛びつくなよ。自転車(チャリ)倒れるだろ」

「えへへ、ごめん。でもその、こうしてやっとクーに会えて僕、嬉しくて……」


……!?

なんだか、さっきまでの彼が纏っていた雰囲気とえらく違うような。

急に話が展開され、ひとりその場に置いてけぼりにされている私は、何をすることもできず呆然と立ち尽くす。


「お前、家はどうした?大丈夫なのか?」

「うん、今はばあちゃん家にいるから平気……。それより凄いでしょ?僕、クーと同じ高校に通うために必死に勉強して特待生になったんだよ。今日から僕もクーの栄えある後輩ってわけ!」

「そうか。それは……頑張ったな」


私の前では決して出さないような、どこかやわらかい声色と表情でその青年に返事する黒芭くんを思わず凝視した。

彼は誰なのか、どういう関係なのか、なぜ最初に私に声をかけてきたのか、わからないことだらけだ。


その視線に気付いたのか、またいつもの鋭い顔つきで私に目を合わせると、彼は一瞬だけ面倒臭そうに息を吐いてからすぐに向かいの青年へと向き直った。


「あのね、クー。僕、クーに会うためにここまで来たんだ。だから、これからはずっと――」

「悪い、琉唯。俺、この女を家に連れ帰らねーといけないからさ。話はまた今度聞かせて。近々、入学祝いに飯でも奢るからさ」

「え……。家に、連れ帰る……」


黒芭くんの冷めた物言いに、同じ言葉を繰り返した琉唯くんは、次第に顔を曇らせる。


「……わかっ……た」


そうして諦めたように俯くと、ふいに私へと角度を変えて振り返り、尖った眼差しで一瞥してすぐにまた目を逸らした。

頭上の黒芭くんに向けて「また会いに来るね」そう声をかけると、振り返ることなく私たちの前から去って行った。