「――はい、白亜です」


黒芭くんが自転車を引き取りに駐輪場に向かった頃、校門の傍で待っていた白亜くんのカバンのポケットから、無機質な着信音が響いた。

いつも彼が使っている白色の端末ではなく、シックな黒のスマホだった。


初めて見たな。白亜くんって、スマホ2台持ってたんだ。


「――わかりました。これから向かいます。……いえ、大丈夫です。僕が行きます」


白亜くんは、電話の相手と少しの間、そんな短いやり取りを交わすと、すぐに通話を切ってそのスマホを今度は制服のポケットにしまった。


「というわけで僕はもう行かないといけないからここで。ちゃんとクロと一緒に帰って来るんだよ」

「え!?もう行くの?」

「寂しがってくれるのは嬉しいけど、すでに結構待たせてるからさ。
ああ、大丈夫だよ?クロはなーちゃんを置いて勝手に帰ったりしないから。ちゃんとそういう“契約”を結んでおいたし」

「いや別に寂しがってるわけでは……。っていうか契約って?」


私が訊き返しても彼は答える気がないらしく、「それじゃあね」私に向けてウインクすると、その場から早々に立ち去ってしまった。

駅とは反対方向……?

一体、どこに行くのか、彼の目的地はわからないけど、勝手に詮索するのも気が引ける。


私は小さくなった彼の背中から視線を外し、脇の街路樹に寄りかかるようにして、黒芭くんを待った。



「――ねえ、キミ、ひとり?」