昇降口まで降り、室内履きと外履きを履き替えていると、
「なーちゃん、僕とクロの警護任務のこと忘れないでよ」
頭上から声がかかり、顔を上げる。
「あ、白亜くん」
「置いてっちゃうなんてひどいなあ。同じ家に帰るのに」
「別に置いてったわけじゃ……。なんだか忙しそうだったし」
怪しい笑みを浮かべて私を見つめる彼から、さりげなく視線を逸らす。
一緒に帰るかどうかなんてそもそも話してなかったし、いくら家が同じだろうと、女の子たちに詰め寄られたあの状態を目の当たりにして声なんてかけられないよね。
「まー、でも。僕、これからちょっと用があるんだよね」
「え、そうなの?じゃあどの道一緒には帰れないじゃん」
「そう。だからさ、代わりにクロと一緒に帰りなよ」
白亜くんは笑顔を崩さずにさらりとそんな突拍子のない提案をしてきた。私はぶんぶんと首を横に振り、それを拒否する。
そもそも私がどうこう言う以前に相手が絶対嫌がりそうだし!
「だ、大丈夫。エレナと帰るし」
「でも今、A線の電車止まってるらしいよ?架線のトラブルやらで」
「え!!」
「エレナは途中駅でB線に乗り換えでしょ?初日くらいちゃんと僕かクロが付き添わないと母さんが発狂しちゃうから。そもそもエレナは――」
そう言って涼しい顔をして彼が口を開きかけたその時。
~♪♪♪
突如、エレナのスカートのポケットからリズミカルな音楽が鳴り響く。着信を知らせるそのスマホ画面を確認した彼女の顔色が、一瞬にして真っ青に変化していく。
「え、エレナ……?」
「やべー!じっちゃんが来る……!ごめん、菜礼!アタシ逃げるから!わりーけどお先!!」
「え?ちょっ……エレナ!?」
一目散に昇降口を飛び出していったエレナを追いかける隙もなく、私は彼女に伸ばしかけた右腕を力なく下ろす。
振り向いた先の白亜くんは、事態を予測していたように落ち着いた表情でにっこりと微笑んでこちらを見ていた。