「まあ、本人が進んで差し出したっていうなら仕方ないかー」

6番席に座る彼女を見てか、はたまた元から拘ってなどいなかったのか、白亜くんはあっさりと身を引いて目にかかった前髪をさりげなく払う。


「そーいうこっちゃなー!つっても、俺はそもそも神席やから別にええねんけど!」

便乗するようにそう言って頭の後ろで腕をクロスさせる颯介くんは、いつから噛んでいたのか、フーセンガムを器用に膨らませて遊んでいた。やはりエレナに席を譲る気などはさらさら無いらしい。


「なんだよ、薄情なヤツらだなー」


そんなツレないイトコと友人を前に、拗ねたように口を尖らせるエレナは、申し訳ないけどちょっと可愛い。


不満そうな彼女に声をかけるタイミングも無く、

キーンコーンカーンコーン

HRを告げる鐘の音が校内に響き、クラスメイトたちが席へ戻り始めた。


「あーっ!ったくオメーら、マジで覚えてろよー!」


エレナの鋭い眼光をものともせず、余裕綽々と舌を出してやり過ごす颯介くんは、そのまま顔の前で片手を振り、私たちを自席へ追い払う仕草をした。

黒芭くんはというと、興味もないのか机に肘をついて窓の外を見やっている。

エレナが悔しそうに一番前の席へ戻って行くのを見送ると、私と白亜くんも自席へと移動を始めた。


「って、……え?」

「ん?どうかした?」


そうして私が着席すると同時に、その右隣の席を引いたのは、その白亜くんだった。


「隣だったの?」

「そうだけど?僕、出席番号7番だから」


相変わらずニコニコと貼り付いたような笑顔で応答する彼を見て、思わず小さく息を吐く。

ここが学校であることを思い出し、すぐに表情を切り替えてぎこちなく笑い返した。


「そ、それはそれは。すごい偶然があるもので……」

「本当にね。何か困ったら声かけて。すぐ助けるから」

「……」


勝手な想像だけど、その言葉を聞いた辺りの女子生徒たちの眉間にシワが寄った気がした。

純粋な善意なのか、他の思惑があるのか知らないけど、妙なことを言い出さないで欲しいものだ。


「う、うん~。ありがとー」

という本音を隠しながら、あくまで“親戚”として違和感のない程度に返事をする。


“皆に優しい王子様”の彼が隣の席だなんて、なんだか既に色々と先が思いやられる気がしてならないが……。

とは言え、なってしまったものは仕方がないので、せめて面倒事に巻き込まれないように気を付けながら生活しようと人知れず気を引き締める。

その後、教室に入ってきた担任の先生によってHRが始まり、クラスメイト同士の簡単な挨拶が交わされると、その日は下校となった。