そうして高松先生の鬼畜エピソードのはけ口とされる内に、これから1年間お世話になる教室――普通科2年A組のクラスが近づいてきた。

ガラス張りの窓からは、青々とした美しい海が一面に広がっていて実に壮観だ。


早く窓から顔を出して直に眺めたいと意気込んだ私が、開きっぱなしだった教室のドアから中に踏み込んだ、その刹那。


「……」


なんだか、物凄く、見られている感じがする。というか実際に見られている。

既に教室に戻ってきていたクラスメイトたちからの、突き刺さるような集中的な視線を浴び、私は入口のすぐ傍でその足を止めた。


「なんだあ?菜礼、初日早々何かしたのかよ?」


私がその空気に吞まれて発言を躊躇する中、一緒にやって来た隣のエレナはそんなこと気にも留めない。

何かした、というほどのことは……してないと思うんだけど。


「……エレナ。その転入生と知り合いなの?」
「その子と、シロくんとクロくんと一緒に登校してたみたいだけど……」


怪訝そうな目を向ける女子生徒たちに、エレナは平然と「それがどうしたー?」ポケットに突っ込んでいたらしいタブレットを取り出してそれを口に含み、視線を合わせることなく答える。


「僕とクロがなんだって?」

「……」


そこで突然背中に降りかかってきた馴染みのある別の声。

振り向くと、爽やかに微笑を浮かべている白亜くんと、その隣で気怠そうに欠伸する黒芭くんの二人が立っていた。


「邪魔。入口の前で突っ立ってんなよ」

「あ、うん。それはその、ごめん」


黒芭くんは、教室内に広がった不穏な空気を一切意に介さずに、誰に目をくれることもなくずんずんと中へ入って行く。

そのまま窓側一番後ろの席の椅子を荒っぽい動作で引くと、あろうことか机に顔を突っ伏して、豪快にも眠り始めた。