「この、馬鹿娘が!だーれが“能面クソボケジジイ”だってか!?」

「い、いたのかよ、じっちゃん……。しかもそこまで言ってねーよ……」


蛍光カラーが反射した“生活指導”の腕章を腕に巻き付けたその教諭は、文字通り仁王像のような凄まじい形相で仁王立ちしてエレナの前に立ちふさがる。


「あーらら……」

「あれ、白亜くん。まだここにいたの?てっきりもう先に行ったものかと……」

「なーちゃん、言ってくれるなあ。クロじゃないんだから、大切な家族を置き去りにして勝手に校舎に行ったりしないよ」


先ほどまでファンの生徒に囲まれていた彼が、女の子たちから解放されてようやく私の隣に戻って来る。

目の前の二人の関係性も知っているのか、目を細めたまま黙って様子を見守っていた。


「それはどうも……。でもさっきの光景見ちゃうと、一緒に登校することのほうが面倒事に巻き込まれそうな予感が……」

「えー?大丈夫だよ~。きっと僕が守ってあげるから、さ」

「……」


このニッコリ笑顔が、なーんか嘘くさいんだよなあ……。根拠はないんだけど。


「全く、この私の弟子ともあろう者が。長い休息期間のおかげで、どうも精神が弛んどるように取れる。また私が1から鍛え直す必要がありそうだな!?」


そこで例の二人の会話が私の意識に割り込んで入って来る。


「なななな……!何を言ってるのさ!じっちゃんの稽古は中学までで十分――」

「異論は認めん!!」


痴漢行為を働いた男性に対峙した時とは比べ物にならないほど顔を引きつらせた彼女の必死な抵抗も虚しく、そのままガシリと手首を掴まれたエレナは、半ば引きずられるようにしてそのお爺さん教諭に連行されて行った。


「菜礼~!(わり)ぃけど、教室情報(クラスデータ)アタシの分検索してからシロに連絡させといてー!」

「え?クラスデータ!?」

「まーだお喋りの余裕があるようだな!?」

「じ、じっちゃん!ごめんって!悪かったよ!大人しくシテマス!」


去り際、最後の(最期の?)の力を振り絞ってか……彼女は私にそんな頼み事をして連れられて行ったけれど……。

結局教諭の手から逃れる術もないようで、彼女の姿は視界から見えなくなっていた。