私立東蘭高校。

都心の高校の中でも広大な面積を誇る有名な進学校。
この土地の一帯が学校の所有となっており、さらにその周りは雄大な海に囲まれている。

校舎は一面ガラス張りで設計されており、細部まで徹底してこだわり抜かれたそれからは、圧倒的な造形美を感じる。

その美しい景観が噂を呼び、その実績も相まって年々受験者数はうなぎ上りだと言われていた。


「で、今更だけど一応自己紹介しとくわ。アタシ、桃園エレナ。シロたちと同じ高2。まあ気軽に“エレナ”って呼んでいーぜ」

「う、うん。改めてよろしく、エレナ。私は、咲田菜礼。同い年だね」

「菜礼な。よし、覚えた!タメだしま、これも縁だ!精々仲良くしよーぜ!」


学校に到着すると、思い出したようにエレナが私へ向き直り、快活そうな笑顔で握手を求めてきた。

私が握り返すよりも早く、一方的に私の手を引っ張り上げては、振りかざすみたいに勢い良く掴み取られる。


見た目はこんなに美人なのに、予想以上に強引で豪快で。そのギャップが未だに不可解でどうしても可笑しい。


「ああーっ!シローおはよお」
「あ、クロも一緒だったんだねえ、おはよお」


校門をくぐると、登校中の生徒たち(特に女子)が次々に私の近くを歩いていた彼のもとへ駆け寄って来る。

そこに、まるで示し合わせたかのようなタイミングで自転車を引いて登校してきた片割れの兄弟が揃い、一瞬のうちに二人の姿が人混みに隠れて見えなくなった。


「え、なになに?なんなの?」

「あー、菜礼は今日が初日だから知らねーかー。これ毎日の光景だから今の内に慣れておけよー」

「毎日の光景って?」

「あの双子、無駄に目立つんだよ。ほら、顔は悪くねーだろ?」


どこか皮肉めいた言い回しで人だかりを見るエレナだが、そんな彼らのイトコである彼女ももちろんそれは例外ではないらしく。

「え、エレナさん……!お、おはようございます……!」
「エレナ様……!おはようございます!今日も一段と綺麗……」

こちらに至っては、男女の垣根を越えた恍惚とした甘い視線を一身にかき集めている。

その内の男子生徒には素っ気ないが(でもなぜか彼らには喜ばれている?)、女子生徒が相手となると別のようで、その一人一人に向けて美しすぎる微笑をそえて手を振り返す、サービス精神旺盛な彼女。


これはこれで、たちが悪いような気がする。