ピーンポーン


都内でも一等地と呼ばれるエリアの住宅街の中心に、場違いとしか思えない16歳の私、咲田菜礼(さくた なあや)は立っていた。

並び立つ家々はどれも立派な造りをしていたけれど、今私の目の前に(そび)える白き外壁の豪邸はさらに群を抜いて大きく、強烈な存在感を放っていた。


一体、なんっつー家だ……。


本当にここで間違いないのか、不安になってはメモの住所とスマホのマップを見比べる。

とは言え、もうチャイムは鳴らしちゃったわけだし、遅いのだけど。

うん……。間違いない、ハズ。
示された住所はこの家を指しているもの。


しばらく経つと、頭上あたりからウィーン、という機械的な作動音が聞こえた。

顔を上げた先には、これまた立派な監視カメラが隠す気など微塵もない様子で私をしっかりと捉えてこちらの様子を窺っている。


『――誰?』

そうしてカメラに気を取られている間に突如スピーカーから流れ出た、愛想の感じられないその声に、私は視線と意識を移す。


「あ、えと……今日からお世話になることになりました、咲田菜礼です」

『……』


え、無視ですか……?

無配慮ともとれるその反応に、やはり家を間違ったのではないかと不安を募らせかけたその時。

――ガチャン、

門扉のロックが外れる音が響き、目の前の豪邸を仰々しく守っていた全自動式のそれが、音を立てながらゆっくりと開いて行く。


『どうぞ』

さらにそれだけ一言、淡白な声が聞こえると、こちらの応答を待たずしてぶつりと音声が切られる音がした。


な、なんだか感じ悪くない……?