「――なあ、オッサン」


満員電車に揺られること数分。

学校の最寄り駅到着まで残り半分くらいの距離に差し掛かったところで、私と白亜くんの乗っていた車両に突如、そんな声が響いた。



「――痴漢って、そんなに楽しい?」

人目を気にすることなく、堂々とした口調で発されたその言葉に、辺りの乗客たちは不穏げに視線を集め始める。


「気付いてないとでも思ってる?それとも、声なんて発しないとでも思ってる?」

「……っ!い゛っ゛!!痛い!痛い痛い痛い!!」


直後、私と同じ制服を身に纏ったその女性のすぐ傍から、野太く悲鳴じみた雄叫びが上がった。


「女子高生ってのはな、テメーみたいなきたねーオッサンに搾取されるために生きてるわけじゃねーんだよ」

「す、すみ、すみませ……い゛っ!!!」

「次の駅着いたらすぐ警察突き出すから。逃げんなよ、オッサン」


突然の痴漢告発行為を目の当たりにして、車内の誰もが呆然としていた。

被害者の女子高生は、果敢にも痴漢中の加害者男性の腕の皮膚に深々と爪を突き立て、加えて手首を思い切り捻り上げたらしい。


その後、車内の乗客の通報により、次の降車駅に着くや否や、待機していた複数名の駅員たちに連行されていく形で、加害者男性は車外へと連れ出された。