ぽかんとだらしなく口を開けて立っていた私を見た隣の彼は、楽しそうな顔をして人差し指で頬を突く。
ハッと意識を取り戻した私が慌てて口を閉じると「間抜け顔」そう言ってケタケタと笑い、こちらを見ていた。
「やめてよ。っていうか彼、自転車通学だったの?」
情けない表情を見られた私は、羞恥心を隠すように早々に話題を切り替える。
自転車通学ってことは、最初から私たちと登校する気なんてなかった……!?
つまり、ただ私に嫌味を言うためだけにわざわざ今の時間まで待っていたと……?
その疑念を感じ取った白亜くんが「いつもじゃないよ」そう言ってそれとなくフォローする。
「雨の日とか、自転車壊れた時とかはクロも電車乗ってるし。それに今日は、母さんに言われてなーちゃんを警護するって役目があったから、3人で電車通学する予定だったはずなんだけど……」
残念ながらそのつもりはなかったらしい。
あえて白亜くんが口にせずとも、その言葉が続くことは火を見るより明らかだった。
特に驚いた素振りもなく、何なら予想の範囲内だったとでもいうべく顔をして、交差点の角を曲がって行く兄弟の背中を見送る彼に、私は目を細める。
「ちょっとは可愛いところもあるなって思ってたのに」
「まあまあ。母さんの機嫌を損ねないためにも、一応出発時刻だけは3人で合わせて家を出るっていう約束はしておいたんだよ。それだけでも守ってくれたわけだし、クロにしては律儀なほうだから」
「ふーん……」
私は不服を募らせた顔で白亜くんの弁明を仕方なく聞いていた。
まあ別にいいんだけどさ。私が勝手に期待したことが悪いんだし。考えてみれば、あの意地悪で陰湿な男が、大人しく私を待ってくれているはずなんてないものね。
「まあとりあえず。クロも言っていた通りあまり悠長にしてると遅刻しちゃうし、僕たちも急ごっか」
「わっ……!」
そうして口を尖らせている私を全く意に介さず、ふいに腕を掴んで引き寄せる白亜くんに逆らうことも儘ならないまま、私は黙って駅への道のりを駆け出した。