「あれ?ねえ、白亜くん。黒芭くんは?もう先に出たのかな」
「クロならそこ」
そうして白亜くんが指さした先は、家の門扉の奥で。
よく見ると塀の向こう側に、それを背もたれにして佇む黒髪の青年らしき後ろ姿が見える。
「もしかして、待っててくれたのかな」
「ここんとこ、ずっと母さんがうるさかったからね。なーちゃんが変質者の犯罪に巻き込まれないように二人で徹底警護して行けー!!ってさ」
初日の夜の内には呼び名が変わっていた凛々子さんの声真似をして、白亜くんは冗談交じりに笑って答える。
「えっ。この辺り、変質者なんて出るの?」
「まさか。母さんが過保護なだけだよ。
君がこの家に来るのを誰よりも心待ちにしてたのは母さんだし、大切な江莉さんの忘れ形見だからね。それだけ可愛いんだと思うよ、君のことが」
それは何となく、というか猛烈に強く伝わっているし、そうやって私や亡き両親を大切に想ってくれているのは娘としてとても嬉しくて有難い。
私は心の中で凛々子さんにお礼を告げて、そのまま塀の奥で私たちを待つ背中に視線を移した。
凛々子さんの指示に大人しく従って待ってくれているなんて、ちょっとは可愛らしいところもあるじゃない、なんて若干上から目線の評価を下した私は、早々にその判断を見直すことになる。
「それより、“なーちゃん”か。良いね。僕もこれからはそう呼ばせてもらおうかな。いい?なーちゃん」
「聞いたそばからもう呼んでるじゃない」
「はは、確かに。それじゃ僕のことは――」
そんな会話を繰り広げながら塀の外までやって来た直後。
そこで静かに私たちを待っていたはずの彼の口から、わざとらしく嫌味なため息が吐き出される。
「白亜。約束通り、出発時刻は合わせてやったし俺は行くけど。そのノロマな能天気馬鹿に合わせて歩いてると、お前も遅刻確定だからな。それと、馬鹿にばっか構ってると知能下がるよ」
双子の片割れは悪意を込めた物言いでそう言い捨てると、私には目を合わせることもなく、脇に停めてあった自転車に跨って颯爽と駆け出して行ってしまった。