「クロはああ見えて天才だから、ずっと首席なんだよね」

「……え?」


部屋のドアを開けたまま立ち尽くす私の背後に近づいてきた白亜くんは、その一部始終を静観していたらしく、困ったように苦笑して補足する。


「首席……?あの人が?」

「ちゃんと試験さえ受ければね。サボった時にはもちろん、そうはいかないけど」


白亜くんは、「クロがサボったら僕が1位なんだ」なんて言って得意げに笑う。

白亜くんがとても優秀だということ、それとなく納得もいくし、理解もできる。


だけど、あの仏頂面の朴念仁がそうだというのが予想外すぎて、どうにも悔しい。


「それにしても……なんだか妬けちゃうなあ」

「え?」

「クロにばかり心を乱されてる感じ。これから一つ屋根の下で生活する仲なのに、僕に興味を持ってくれないのは寂しい」

「……ひぁっ」


背中から突然腕を回され、耳元で囁くように言葉を漏らす白亜くん。

急激に心拍数が上昇するのを感じながら、どうにか状況を理解しようとフル稼働で脳と神経を機能させる。


「は、白亜くん!?急にどうしたの!?」

「なあに、照れてるの?仮とは言えこれからカゾクになる間柄なんだし、僕とも親睦を深めてもらいたいだけなんだけど……」


妙なことを言っているわけでもないのに、耳をくすぐるような息遣いが落ち着かなくて、嫌でも自覚できるくらいには顔が熱くなるのを感じた。

な、なになに?今どうなってるの??
私、初対面の同年代の男の子に後ろから抱きしめられてる状態、ってことだよね……!?


「……なーんちゃって」

「え」

「耳まで真っ赤になっちゃって、菜礼さんってピュアで可愛いんだね……?意地悪はこのくらいにしておこうかな」


私が反応する間もなく、彼の両腕が私から離れていき解放される。


「あーただ、無防備すぎるのは問題かな。これからは、こんなに簡単に、部屋に男を招き入れないようにね」

「……っ」


彼はそうしてすれ違い際に私の頭をぽん、と軽く撫でた後、そのまま部屋を去って行く。

熱くなった両頬を宥めるように両手で覆い、私はその場にへたり込んだ。


な、何なのよ……。あの兄弟は……。