「……どいてくれる?部屋に入りたいから」

「つれないな」


にこっと笑って私の前に立ちふさがる彼――白亜は「ここじゃなんだし」そう呟いて、高い背丈から見下ろすように私に目を合わせた。


「僕も入れてくれる?キミの部屋の中に」

「私、話したいことなんてないし」

「そんな素っ気ないこと言わないでよ。家族なのに」


はぁ。よくわからない。

昼間と言っていることが二転する彼を、私は言葉にはせずに睨み見る。


彼の腕がドアから離れた隙を見て中に入ると、そのままなぜか一緒についてくる背後の白亜に私はため息を漏らした。


「無防備すぎるのはいただけないって前に警告したはずなんだけどな」

「……っ!」


私が振り返る間もなく、彼の両腕がさらりと私の自由を奪う。

これ、2回目だ――。


私の耳元に彼の甘い息がかかって、その場に硬直したままの私を弄ぶように、彼の片腕が私の頬に伸びて来た。


「白亜……」

「男を簡単に部屋に招き入れないこと、そう教えたはずだけど?」

「招き入れた覚えはない……」


勝手に入ってきたのは白亜だ。

追い返したりはしてないけど……。


「……んっ」


そこで唐突に右耳の神経が熱く痺れるような感覚を覚えて、私は咄嗟に強く目を瞑った。


「なーちゃんって、思ったよりも福耳なんだね~」

「な……に」


勝手に耳たぶを軽く甘噛みされて、私の体温が急激に上がっているのを感じた。

白亜に――遊ばれている。私の反応を楽しむように、彼は艶やかで余裕のある表情をして、私を薄く見て言った。


「ダメだよ。あんな風にあからさまに態度に出したら」

「……」

「父さんも母さんも心配するし、黒芭も違和感に気付く。なーちゃんが僕にイジメられたなんて言った日には、母さんにどんな重い罰をくだされることか」


その言葉とは裏腹に、彼は少しも慌てる素振りも怯える仕草もない。

やっぱり私をからかって楽しんでいるだけで、琉唯くんの前でも動揺を隠せなかったくらいにショックを引きずった私としては、そのわざとらしいほどに遠慮のない態度がどうも釈然としなかった。


してやられるものか――。