手早くお風呂を済ませた後、リビングを経由して自室へ戻ろうとした時には、すでに家族は夕食の時間を終えていてダイニングから姿を消していた。

と思ったのもつかの間、リビングのプロジェクターで、年代物の昔の映画を肩を並べて鑑賞していた聖さんと凛々子さん夫妻の姿に、つい顔がほころぶ。


「菜礼ちゃん、お風呂上がったんだね。湯加減はどうだった?」

「さっきよりも顔色は良く見えるけど……生姜湯でも入れる?」


音を立てずに階段を上がろうとしていた私の気配にあっさり気付き、二人はソファから振り返って私に笑いかける。


「お風呂気持ちよかったです。体調も生姜湯も大丈夫です。映画の途中にお邪魔してごめんなさい」

「大丈夫よ~。もうこれ何十回も観てる映画だもの」

「そうそう。昔から何度も何度も繰り返して観てるからね。展開もわかってるんだ」


そう言って笑い合う二人は本当に、見るからに仲睦まじいオシドリ夫婦という感じで、私も二人を見ているだけで自然と笑顔になれる気がした。


こんな風に、当たり前に顔を見合わせて笑い合えるような家族になりたい――。

そう願うのは、いけないことだったのかな……。


「……楽しんでください。私はもう部屋に戻りますね」

「おやすみなさい。無理は禁物だからね?明日の朝も具合が悪かったら学校休んでもいいんだから」

「ああ、何かあったらすぐに私たちや息子たちに言いなさい」


裏のない優しい笑顔に絆されて、自然と笑みがこぼれる。

私は「おやすみなさい」そう言って頭を下げると、二人に背を向けて2階へ上がった。


そうして螺旋階段をのぼり、自室のある廊下へ歩を進める私はそこで、ふと息をのむ。



「……」


私の部屋の前で壁によりかかって腕を組んでいた淡い髪色の彼に、なるべく表情を悟らせないよう顔を引き締める。

そのまま言葉を交わすことなく部屋に入ろうとする私の視界を遮るようにして、彼の右腕がドアの前に橋を掛けた。