……そう言われても。何を言えばいいのやら。

私はようやく落ち着き始めた涙を琉唯くんのアイロンがけされた美しいハンカチの隅っこで軽く拭い、改めて何を訊くべきかをバレないように模索する。


「あの、さっきも言ったけど、お母さんすごく綺麗な人だったし、目元とか琉唯くんによく似てた、と思う。男の子はお母さん似になることが多いって言われるけど、琉唯くんもやっぱりそうなんだね」

「……。まあね。僕のこの整った容姿は完全に母さんから受け継いだものだから」

「あはは……。自分で言っちゃうんだね。でも、その通りだと思ったよ」


いつものトゲトゲしたオーラが少しだけ丸くなっているのを感じて私もかすかに嬉しくなった。その空気を壊したくなくて、どうにかぎこちなく笑い返す。

そんな見るに堪えない私を見た彼の表情がまた歪み、鬱陶しそうにシワをつくった。


「役者じゃないんだからそんなヘッタクソな笑顔見せつけてこなくていいよ。作り笑いするにしても、せめて白亜あたりに嘘のつき方くらい習ってから出直した……ら……」

「……っ」

「!?ちょっと!なんでそこでまた泣き出すわけ!?もう、本当にわけわかんない!」


もう、ダメだってば。

琉唯くんにこれ以上、迷惑かけるわけにはいかないのに。


私は再び疼き始めた傷を隠すように、あたふたと慌てる琉唯くんから咄嗟に体を逸らす。


「だ、大丈夫。大丈夫だから。とにかくもう琉唯くんは戻って。昼休みも終わっちゃう頃だし、そろそろ行かないと」

「あーうざい!ほんっとアンタって鬱陶しいよね!さすがの僕でもそこまで薄情なつもりないんだけど。……とにかく。ここじゃ何だし、ついてきて」

「え!?あっ……琉唯くん!?」


その直後、私の腕が再度彼のそれによって強く引っ張られ、同時に体が彼の方角へ傾いた。

半ば引きずられるようにして辿り着いたその先は、この前、同級生に詰め寄られる彼と出くわした、あの中庭のさらに奥だった。