白亜が立ち去った頃には、告白を終えた先ほどの女子生徒と黒芭くんは2人ともその校舎脇から姿を消していて。

どうやらこちらに気付くことなく移動したようだ。


「あ、生徒手帳……届けなきゃ」


あはは、何やってんだか。そうわざとらしく何でもない振りで琉唯くんのそれを握る手に力を込める。

流れかけた涙を強引に腕で拭い、そのままアリーナへ続く外廊下へ向かおうと切り替えたとき、アリーナの出入口のドアが開き、中から生徒たちが一斉に外に出て来た。


まずい。このままじゃ人混みで琉唯くんのところに行けなくなってしまう。

そう思って慌てて彼を捜すため辺りを見渡したちょうどその時。


グイッと腕を引っ張られて、私は外廊下から中履きのまま死角になっていた隅に引き寄せられる。


「遅い」

「あ!琉唯くん、ごめんなさい。待たせちゃったね……」

「はぁ……。アンタがちんたらしてるから人が出て来たじゃん。全く、これだからノロマは……って、は!?」


呆れ顔で違う方向を見ていた彼が、ふいに私に視線を合わせたその途端、あまり見たことがないくらいに驚いた顔をして、余程予想外のことだったのか、焦ったように一歩後ずさる。


「な、なに!?アンタ、何で泣いてんの!?や、ちょっと……意味わかんないんだけど。ほんとなに、うわ面倒クサ……」

「え、泣いてなん、か……」

「いやいやめちゃくちゃ泣いてるし。てか勘弁してよ。なんでこの僕が嫌いな女の泣き言に付き合ってやんなきゃなんないわけ……」


琉唯くんは心の底から迷惑そうな顔をして荒っぽく頭を掻く。

それが申し訳なくて、「ご、ごめん、そうだよねごめん」平謝りで溢れ出す涙を拭うけど、それはなかなか思うようには引っ込んでくれない。

それどころか、次第にどんどん勢いは増すばかりで、もはや涙の量に対して人差し指一本ずつで擦り取るには間に合ってくれない状態で、自分でもどうすればよいのかわからなくなっていた。


「はぁ……。ちょっと、落ち着いたら?そんなにゴシゴシ無理に擦っても仕方ないでしょ。肌荒れるよ?全くもう……」


琉唯くんはやむを得ずといった様子でポケットから綺麗に折り畳まれたハンカチを取り出すと、本意ではない顔をしてぶっきらぼうにそれを差し出して来た。