「琉唯くん……あ!」

黒芭くんの姿は見失ってしまったものの、琉唯くんにここで会えたのはある意味幸いだったかもしれない。


「琉唯くん、この前中庭のベンチの辺りで生徒手帳落とさなかった?私が拾ったんだけど、ごめん、カバンのポケットに入れてるから今は持ってきてないの。取りに行ってくるからちょっとここで待っててもらえる?」

私がそう尋ねると、彼は私からそんなことを言われるとは思っていなかったのか、虚を突かれたようにその大きな瞳をわずかに見開いた。


「あ、アンタが持ってたんだ。ああそう。あの時落としたのか」

「もしかして探してた?ごめんね、もっと早く教えてあげられたらよかったんだけど、土日を挟んじゃったから……」

「別に。ま、待っててあげるから急いで取ってきて」


琉唯くんはばつが悪そうに私から視線を逸らすと、その場で腕を組んで外廊下の支柱によりかかるように後ずさる。


「わかった!ちょっとだけ待っててね!あ、琉唯くんもよかったらアリーナのライブ覗いてみたら?今ならまだクロクロの――」

「うるさい。いいから早くして」


琉唯くんは、珍しくちょっと素直な反応を示してくれた彼につい調子づいてしまった私を容赦なく一蹴して、いつも通りの冷めた眼差しで睨みつける。

私は「ハイ」大人しく苦笑いで頷いてから、彼の生徒手帳を取りに教室へ急いだ。



無事に教室に戻りカバンから生徒手帳を取り出すと、私はすぐに走ってきた道をUターンして1階へ下りる。


もう1,2分で彼の待つさっきの場所にたどり着こうとしていた矢先。

「――好きです!」

校内のほとんどの生徒や教師がアリーナに集結していたからか、廊下を歩いている人影はほとんど見られなかったが、そんなさ中、耳に突然飛び込んできた、意を決したような大胆な声に、私は思わず足を止めた。

1階廊下の窓から外に目を向けると、校舎の脇で、先ほど追いかけようとしていた見覚えのある黒髪の青年が背を向けて立っていた。

向かいには、目線を少し下向きに下げて、緊張させた肩をわずかに震わせている女子生徒の姿がある。


も、もしかしなくてもこれって……告白現場!?

私はアリーナ前の外廊下で待っているはずの琉唯くんに申し訳ないと思いながらも、ほんの少しだけ、と息をひそめてその場で腰を低くする。


2人にバレないよう注意しながらしばらく様子を窺っていると、聞き馴染みのある低い声で淡々と、彼が口を開いた。