「ちょっと押さないでってば!」
「あーもうっ!洸様の顔が見えなーい!!」
「悦くんー!こっち向いてー!!」
「遼太郎ー!可愛い~♪」


普段は学期ごとの行事や重要な式典で利用される機会の多いアリーナだが、昼休みが近付くにつれ東蘭の高等部のみならず、中等部や大学の生徒たち、また噂を聞きつけて集まってきた外部の一般客までもがこぞって訪れ、場内はとてつもないヒトの熱気に満ちていた。


たった1曲か2曲披露するだけなのにこの人気だもんなあ……。

普段からあまりテレビを見る習慣のない私は知らなかったけど、彼らの人気がここまでだとは全く想像すらしてなくて、正直度肝を抜かれた。


『うわぁ~。すっごい人っすねー!わざわざオレたちのために駆け付けてくれてサンキューっす!』


ステージの上からその光景を見下ろすクロクロのひとり、遼太郎さんはマイク越しにそう言って大きく片腕を振りサービスする。


『そんなにこの俺様の美顔と美声に酔いしれたかったか?ったく、しょうがねーなぁ』

『……』


洸さんのややイタすぎるナルシスト全開トークと華麗なウインクを真顔で流し、悦さんは自身のベースに目を向けながらその場に無言で構えた。

その姿はあまりロックバンドに詳しくない素人の私から見ても様になっていて正直すごくかっこいい。


『今日はあんまり派手にはできねぇけど、全員しっかりついてこねーと承知しねぇぞ!

――“fake”』


洸さんが曲名をさらりとマイクに乗せて、それを合図とした瞬間。

場を裂くようなアップテンポなドラムが場内に響き渡り、それに重なって紡がれる存在感あるベースの音色が全員の視線と意識を一瞬にして搔っ攫った。


これが――プロのバンド。プロが創り出す“音楽の力”。

ここにいる誰もがその壮大で圧倒的な音の魅力に引き込まれ、なす術なく一方的に、脳を支配される。


マイクに口がつくかつかないかくらいの距離で、中央に立つ彼が息を吸い込んだ。



――!!

目が醒めるような声量と、聴く者の心を丸ごと掴んで離さない、力強くも伸びのある歌声。

かと思えば、儚くて苦しくなるような色気のあるハスキーボイスも、誰もを巻き込んでしまう爆発的な表現力も、それらは全て思いのまま。


すごい。

勝手に、無意識のうちに、知らぬ間に目と耳を奪われる。


彼らの曲に、魅せられる。その表現が一番しっくりくるのだ。

胸の奥のほうから、何か熱いものが否応なく急速に沸き上がって来るのを感じて、体が全力で震えるような体中の細胞が騒ぐような、そんなどうしようもない衝動に駆られた。


――楽しい。かっこいい。もっと。もっと知りたい、聴きたい。

これが彼らの生み出す音楽なんだと、自分の身に走る感動が全身全霊で伝えてくれる。