って、ちょっと待て。

人の心配してる場合じゃなくない!?


「え!あの!!私がボーカルを探してくるんですか!?」

「あ?そうだっつってんだろ。お嬢ちゃん一番暇そうじゃねーか。丁度いいだろ?楽器組は練習しねーとならねえし、残り2人は学級委員なんだろ?ただでさえ学校の雑務が多いんだからお前が一番適任じゃねぇか」


そう言って大口を開けて欠伸をする洸さんの言葉は確かに正論で反論できそうもない。


「わりーな菜礼。先に体育祭があるからよ、学級委員は体育委員に協力して何かと手伝いが増えるっつー話がこの前の定例会議であったんだよ」

「せやった……忘れとったわ」


エレナが申し訳なさそうに手を合わせると、続いて颯介くんも今思い出したのか顔を覆って億劫そうに天を仰ぐ。


うーん……。色々と思うところはあるけれど……。

そういうことならやむを得ない。


「わ、かりました。やってみますけど……。でも私、音楽的センス?感性?みたいなのって皆無ですよ……。歌もあまり得意ではないし。一体どうやって探せば……」

「それについては、うちの仁礼ちんが力になってくれるかもよ~?」


そこで間に割って入って来たのは今の今まで静観を続けていた櫂先輩だ。

エレナの視線がまたも冷ややかなものに変化するのを肌で感じながら、私はそれとなく「というと……?」彼に問い返す。


「仁礼ちん、ああ見えてコーラス部の部長さんだからさ~、きっと歌上手い子の情報、持ってると思うよ?」

「……!」


想像以上にしっかりとした有力情報をもたらしてくれた櫂先輩には内心驚かされつつ、それでも拭いようのない懐疑心を抱きながらも、私は助言を素直に受け取りペコリと頭を下げる。


「わかりました。仁礼先輩に相談してみます」

「そうしな~?放課後にコーラス部の部室に行けば会えると思うよ~」


笑顔を崩さずに続ける櫂先輩に、「兄貴、何企んでんだよ」そう警戒の眼差しを向けるエレナには私も同意したいけど。

「ひどいなぁエレナちゃん。困ってる後輩に優しく手を差し伸べてあげてるだけなのに」

そんな妹の視線を笑って受け流す櫂先輩のアドバイス以外に縋るものがない私はそれに頼るしかない。


私は、自らの兄を鋭い形相で睨みつけるエレナを宥めつつ、これから始まるコラボバンドの主軸を担うボーカリスト候補探しに思いを馳せるのであった。