「要するに――文化祭限定の、クロクロ×東蘭コラボの即席バンドステージ、って感じすかね?オレたちクロクロがバックアップしつつ、ここにいる生徒さんたちがプロデュースする方向でいいっすか?」


突然の理事長の言動に驚きを隠せない私とエレナは、そこでわかりやすく要約してくれたクロクロメンバーのひとり、遼太郎さんのその一言を聞き、ひとまず自身を落ち着かせる。


「即席バンドステージのプロデュース……」

「ああ、大丈夫っすよ!もちろん曲作りとかバンドやる上での諸々のフォローは基本的にオレたちができますし。ここ軽音部ないっすもんね確か。いいっすよね?洸さん、悦さん?」


不安がる私に向けて遼太郎さんがそう声をかけ、彼の隣に座る洸さんと背中の悦さんにも話を振ると、悦さんは無言のまま、ソファ中央の洸さんに視線を投げる。

恐らく、彼の判断に委ねる、ということなのだろう。


「ま、そういう若者の手助け?っつーのもたまには悪くねぇんじゃねーの?

それじゃーおい、女」

「へ?私ですか?」


洸さんに突然指名を受け、私はあたふたしながらもその呼びかけに返事する。


「お前、ボーカル1人探してこい。俺たちは暇じゃねーからな、いちいちそこの面倒まで見きれねえ。初回の打ち合わせまでに、お前がコイツだと思うヤツを連れてこい。

亜白、お前ピアノ弾けたよな?ならキーボードな。弾けねーなら遼太郎に習え。黒髪の双子、お前はベースだ。悦に習え。

残り2人とうちのメンバー・スタッフで曲作りと楽器と機材の準備、諸々を進める。いいな?」


洸さんはひとりでにペラペラと指示を出して、一方的な説明が終わると同時にそのまま伸びをして立ち上がる。

メンバーの2人は慣れた様子で、悦さんは「だりぃ」遼太郎さんは「了解っすー」なんて軽々に反応を示していた。


「あー、でもオレたち普通に自分らのライブも控えてるんで、あんまり頻繁には来れないっすよ?楽器組のお二人は、基本は自主練で、たまにオンラインとまあ上手く都合合えば対面で状態見るって感じでお願いしたいんすけど」

「いや、僕バンド出るなんて一言も言ってな――」

「あーん?おい亜白テメー、これまで俺たちから受けた数々の特別待遇の恩、忘れたとは言わねーよなぁ?」


洸さんに睨みを入れられ、白亜はばつが悪そうな顔をして目を逸らし口を噤む。

黒芭くんはというと、珍しく反抗的な態度をとるでもなく、ただじっと壁に背を預けているままの彼――悦さんを静かに見つめていた。


……?

ものの一番に面倒だの何だので反対してもおかしくない状況なのに、えらく大人しい彼の態度に違和感を覚える。