「あー、クロクロなー。アタシはあんまり興味ねーんだけど、今この学校のどっかにそのメンバーが集まってんだろ?そいや、パパが今年の文化祭はクロクロの単独ステージをやりたいからスケジュールを押さえるためにどうとかこうとか……」

一緒にその話を聞いていたエレナが、「んー」と無理やり記憶を掘り起こすように唸りながら首を捻る。


「さっきボーカルがどうとか言ってたし、アーティストってことかな。歌手グループ?」

「菜礼、クロクロ知らねーの?さすがのアタシでも存在と名前くらいは知ってるぞ?」

「え、そうなの?有名な人ってこと?ごめん、芸能人とか疎くてよくわからない……」


滞在している神代家では食事中は家族団らんの時間を大切にするべきだという聖さんの方針でテレビをつけない決まりだし、そんな聖さん自身も常にお仕事で忙しい人だからあまり長時間リビングに居続けることってなくて、夜は大体書斎にこもりがちなんだよね。

凛々子さんは美容系の配信動画を見ながらのストレッチとかヨガに夢中で、あまり芸能人や歌手に興味がありそうな感じはしない。

双子も大体食事の後は各々の部屋に戻っちゃうし。


神代家ってこう見ると、モラルとかマナーにはそれなりに厳しいけど、それ以外は結構な放任主義だよね。


「まー菜礼って流行とかそういうのあんまり気にしてなさそーだもんな」

「その表現はちょっと複雑なんだけど」

「や、貶してるつもりは全くねーって!拗ねない拗ねない」


身長差のあるエレナは私よりも目線が高くて、まるで子供をあやすような口ぶりで私の頬をむぎゅっと掴む。


「んっ!もう、エレナまで白亜みたいなイタズラしないでよー!」

「白亜?菜礼ってシロのこと名前で呼び捨ててたっけ?」

「本人がシロって呼んでいいって言うから、それはなんだか気が乗らなくてそう呼んでるの」

「ふーん?」


私の話を聞き、またもニヤニヤと薄ら笑いを浮かべて口元を緩めるエレナからは、あらぬ誤解をはらんだような得体のしれない薄気味悪さを感じる。


「エレナさん?何か勘違いしてらっしゃらない?」

「いいえ何もー。家ではなんだかんだであの双子とも仲睦まじく?よろしくやってんだなーって思っただけですよ?」

「なんかその言い方だと語弊がある!全然そういうのじゃない!しかも黒芭くんとはほとんど会話すらしてない!」


私の必死な弁解を聞いても「ハイハイ」なんて聞く耳を持たない彼女を睨み、仕返しだと言わんばかりに、エレナの苦手な脇腹をくすぐる。


「あーっあははは!ごめん!ごめんって!ギブ!認める!認めるから!」

「素直でよろしい」


すぐに音を上げた彼女から手を離し、ゼエゼエと疲れ果てた様子で息をするエレナを見て、私はフフンと鼻を高くし仁王立ちで見下ろした。