私も手当は済んだわけだし、そろそろ戻ろうかな。

そう思い立ち保健室を出た私は、そのタイミングで鳴り始めた1限目の終わりを告げるチャイムの音を聴きながら廊下を歩いていた。


体育の授業に戻ることはできなかったけど、まあどの道またあの激闘の中に参戦したとてチームの迷惑にしかならないだろうし……。

まだ若干痛みの残る左脚を引きずりつつ教室の近くまで戻ると、向かい側から体育着のクラスメイトたちが姿を現す。


「あっ!菜礼~!怪我は大丈夫だったかー!?」

その先頭を歩いていたエレナが、私の姿を捉えてこちらに駆け寄ってきた。


「うん、大丈夫。なんかよくわかんないけど、謎の元医学生に手当してもらったから」

「謎の元医学生……?誰だよそれ」

「わかんないんだよね。名前は確か……あれ?なんて呼ばれてたんだっけ……。ごめん、直接私が本人に聞いたわけじゃないからあんまりちゃんと覚えてなくて忘れちゃった」

「はー!?なんだかよくわかんねーなぁ……」


私の情けない弁明に呆れながらも、「まあでも大したことないなら良かったよ」そう言って微笑むエレナの気遣いが嬉しくて私も同じように笑い返した。


「ところで何だかやけに騒がしいみたいだけどどうかしたの?」


私とエレナがこうして立ち話をしている隙にも、授業を終えた他のクラスの生徒たちがわらわらと廊下に集まって来て、落ち着かない様子で何かの噂話を繰り広げているようだった。

よくよくその会話の一部に耳を傾けてみると――


「ねえちょっと、今校内にクロクロが来てるってマジ!?」
「そうそう!私隣のクラスの友達から聞いたんだけど、移動教室の時ボーカルの人の後ろ姿見たって!」
「キャーー!!マジやばいんだけど!今どこいんの!?会いたい会いたい!!」


“クロクロ”とか呼ばれる人たちがどうとか、そういう話でもちきりのようだ。