「っていうかソレ。早く処置したほうがいいんじゃない?俺に気を取られることで痛みが和らぐなら大いに結構だけど」

「あっ!は、はい!只今!」

「いや別に俺が怪我してるわけじゃないからいいんだけど……。あと手に持ってるそれ絆創膏でしょ?確実に打撲に使えるものじゃないと思うけど……?」

「……わ、わかってます!い、今、えっと、包帯を……」


――ガチャガチャ、ガッシャーン!

何かを探して手を滑らせた私は、机の上に配置されていたあらゆる道具を勢い余って床に散乱させてしまう。

慌ててそれらを拾い上げるけど、もう何が何だかわからなくて恥ずかしいし、怪我の痛みは変わらず響くし、心が折れかけてほんの少し泣きそうだった。

目も当てられない状態の自分が情けなくて、必死に歯を食いしばる。


も、もう本当に最悪!

脚は痛いし、変な人に変なとこ見られるし……。


「はぁ……。仕方ないなぁ」


私が明らかに挙動不審過ぎて見かねてしまったらしい彼が、ちょっと怠そうな素振りでベッドから下りて来る。


そのあまりの手足の長さに落ちかけた涙も引っ込む勢いでびっくりしていると、

「……何?あ、もしかして、ようやく俺のこと思い出してくれたの?」

なんだか漫画で見たことのあるようなセリフを極々自然に無表情のまま口にして、彼は私のすぐ傍までやって来た。


「い、いや。全く思い出してないです。っていうか思い出すも何も知らないです、あなたのこと」

「……。“俺たち”もしょせんはまだまだってことか。これは洸と遼太郎にもリアルな声として報せておかないとな」

「は……?ヒカル?リョウタロウ……?」


すでに彼のことはよくわからないが、よくわからない人の口から出て来た新キャラはもっとよくわからない。

私は反応に困ってとりあえずその名前を繰り返してみるけど、「マジで知らないんだ」彼は今更本当に驚いたような顔をして、ガサガサと医療器具の山から必要な道具を数点取り出し、私の向かいの丸椅子に腰かける。


「ま、いいや。とにかく先に応急処置ね」

「へ?ってちょっ……何してるんですか!?いいです、自分でできます!」

「打撲に絆創膏貼ろうとしてた子が何言ってんの」


全くその通りでぐうの音も出ないのだが、だからと言ってたった今知り合ったばかりの謎の不審男性(失礼)に手当をされるほど私も能天気な頭は持ち合わせていないつもりだ。

直ちに患部の脚を引こうと動かしかけたところを、即座に彼の手によってそれが阻止され、挙句には固定されてしまった。


「ほら動かない、大人しくする。大丈夫だよ。俺、こう見えても元医学生だから」

「!?医学生って、お医者さんを目指している大学生、のことですよね……?」

「正解。よく知ってるねー。エライエライ」


愚問だとでも言いたいのか、彼はほとんど表情を変えずに真顔のまま、まるでお手本みたいな棒読みでそう言った。

なんとなく自分が居た堪れなくて抵抗するのを諦めた私は、とりあえず彼の手当を大人しく受け入れる。


上から見るとよくわかる、長いまつ毛と高い鼻。ニキビひとつない素肌。

常日頃から超の付くイケメンや美女に囲まれていることもあってか、私の中の美形センサーの審査基準も格段にレベルアップを重ねているはずなのに、易々とそれをクリアして高水準を叩き出してくるその人の正体は不確かなままでまだ知れない。


だけど彼にはこう……不思議と目を引き付けられる何かがあって、私は丁寧に怪我の手当をしていく彼を、無意識下のままずっと眺め続けていた。