それは春の兆しを感じ始めた3月のことだった。


「――お祖母ちゃん!!!」


担任を通じて連絡を受けた私は、一目散に学校の教室を飛び出し、その病室へと駆け込んだ。


「あらあら、来てくれたのね、菜礼(なあや)


唯一の親類である祖母が、包帯でぐるぐる巻きにされた痛々しい腕を抱えたまま、私に向けていつも通りの笑顔を浮かべていた。


「お祖母ちゃん、階段から落ちたって聞いて……」

「心配かけて悪かったねえ。でも大丈夫よ、大したことはないのよ」

「だけど……」


そう言って私を安心させるように彼女は笑うけれど、視界に映るその姿は決して“大したことない”程度の状態じゃなくて。


「お祖母ちゃんね、しばらくは入院になりそうなの。だから当面は家に帰れないのだけど……」

「あ、当たり前だよ!何か必要なものとかある?家から持ってくるよ」

「大丈夫よ。それよりも……」


祖母はそこまで言いかけると、何かを言いよどむような顔をして目を伏せる。

そうして意を決したように言葉を続けた祖母の話は、私の日常を一転させる、ひとつの大きなきっかけとなった。