初めての国語の授業。
 みんながやがやした。田沼はちょっと遅れていた。それでも田沼のファンの女子はいて「田沼先生こないねえ」と噂しあっていた。
 がらがらと、前の方の扉が開いた。皆静まった。
 田沼が入って来た。田沼は茶系の暗い色の服を着ていた。教壇につく。
 「ああ、ちょっと遅れてすまない」
 (別にいいけど)とゆうなは思った。ゆうなは耳の上ツインテール、ラビットスタイルにしていた。紺のブレザーに白いブラウス、リボンをしていた。スカート、白い腕時計。靴下は黒のハイカット丈。
 田沼が一瞬、ゆうなを見た。
 え、ゆうなは田沼ににらまれた気がした。
 (え、気のせい?)
 「ああ、授業の前にい、皆の基礎知識を問いたいと思う」
 え、皆がきょとんとした。
 「1910年創刊の文学同人誌「白樺」を中心にして起こった文芸思潮はわかるか?」
 と、田沼がさらっといった。
 あ、いやそんなん知らねえよ、とゆうなは思った。みんなそう思った。
 田沼が名簿を見た。誰かあてるつもりだ。ゆうなは緊張した。ど、どうかあたりませんように。
 「ええとお」
 田沼がクラスを見回した。ゆうなを見た。やばい。あてられる。
 「はい」
 と、手を挙げた女子がいた。茶色の髪が長い、目のくりっとした女の子だ。紺のブレザーに白いブラウス、リボンをしている。
 助かった、とゆうなは思った。
 「阿部ゆうな」
 と、田沼はいった。
 (えええええええええええ)
 「は、はい」
 ゆうなはたった。
 「1910年創刊の文学同人誌「白樺」を中心にして起こった文芸思潮は?」
 「・・・・・・・」
 ゆうなは考えた。え、なんだよそれ。文学史かなあ。そんなん読んでねえよ。
 「はい」
 と、茶色の髪が長い、女の子がまた手をあげた。
 「ゆうな、君はあれか、文学史を一度も読まなかったのか?」
 と、田沼はいつものように陰険にいった。
 「え、いやあ、はあ、そうです」
 と、ゆうな。
 「ふむ、授業に挑む態度がなってない」
 と、田沼。
 「はい」
 と、茶色の髪の長いこがまだ手を挙げている。
 田沼はため息をついた。
 「もういい。座れ」
 「は、はい」
 と、ゆうなは座った。
 「はい」
 と、茶色の髪の長いこが手を挙げている。
 「1910年創刊の文学同人誌「白樺」を中心にして起こった文芸思潮は、「白樺派」というんだ」
 と、田沼はいった。
 「えー、まんまじゃあん」
 と、みんなが口々にいった。
 田沼が笑った。
 「こんな簡単なクイズにもこたえられねえのか?」
 と、田沼。
 「ええええええええええ」
 と、クラス一同。
 「はっ、はっ、はっ、まあ君らの実力が見えたところで授業とするか」
 (わあ、いやな奴だあ)とゆうなは思った。なんて意地悪なんだと思たのだ。