大西くんとの待ち合わせ場所には背を向けて、反対方向へと歩き出す。

少し離れたところで、行けなくなったとメッセージを送ればいいよね……。


「槙田ちゃん、どこ行くの?」

「!!!」

大西くんの待っている場所とは反対の方向に向かって歩き出したはずなのに、なぜか目の前に立ちはだかっている大西くん。


「どうして……」

「俺の方が歩幅、大きいからね?槙田ちゃんが反対方向に歩いていくの見て追いかけた」

ふぅ、と一息ついた大西くんの額には、うっすら汗が滲んでいた。

急いで追いかけてくれたのか……。いや、追いかけるどころか、先回りしてくれたんだ。


ぱちり、大西くんと目があって気付く。

今の私、メイクが崩れてるんだった!!


「あの、今日なんだけど、お腹が痛くなっちゃってね?だから、デートはまたにしてもらえたら嬉しいなぁ、なんて」

メイクが崩れているであろう目元に、片手で前髪を押さえつけて見えないようにして、もう片方の手はお腹にあてる。

でも、この大西くん、そんな小細工が通用するような人ではない。

前髪を抑える手をどかし、私の顔をまじまじと見つめると、にこりと笑った。