同じ頃、エリスはマリアンヌと共に帝国図書館を訪れていた。
先日マリアンヌから借りた恋愛小説がとても面白く、「ぜひ同じ作家の他の作品を読んでみたい」と伝えたところ、「ならさっそく借りに行きましょう」と誘われたからである。
帝国図書館とは、言わずもがな帝国内最大の図書館だ。
言語・文化の垣根なく大陸全土からありとあらゆる分野の書物が集められており、蔵書数はなんと一千万巻。"英知の泉"と称され、帝国民に広く利用されている。
そんな図書館に初めて足を踏み入れたエリスは、感嘆の息を漏らした。
(凄いわ。本棚が天井まであるなんて)
吹き抜けになったホールの向こうに広がる三階層のフロアは、奥の壁が見えないほどずっと先まで続いている。
そこに並ぶ何百もの本棚は、各フロアの天井にまで届いてた。
マリアンヌとのお茶会で水晶宮を訪れた際にも思ったが、流石は帝国だ。規模が違う。
それに、市民に一般開放されているだけあって人がとても多い。
老若男女、階級の境なく、大勢の人に利用されているのがよくわかる。
ホール内のフリースペースに目を向けると、まだ五、六歳と思われる――服装からして労働階級の――子供が行儀よく絵本を読んでいて、感心するばかりだった。
(凄いわ。あんなに小さいのに字が読めるのね。帝国市民の識字率がほぼ十割と聞いたときは信じられなかったけど、本当だったんだわ)
帝国がこれだけ強大な力を維持できているのは、軍事力だけでなく、教育によって技術水準を日々進歩させているからなのだろう。