あの日から早一月(はやひとつき)

 朝夕毎日顔を会わせ、食事をし、セドリックの助言で花を贈ってみたりはしているものの、それ以上踏み込む勇気もなく、きっかけもなく、時間だけがずるずると過ぎてゆく。

 そんなアレクシスの状況を、セドリックは内心歯がゆく思っていた。

 極度の女性嫌いのアレクシスが、"初恋のエリス"以外に初めて女性に興味を持ったのだ。
 しかもそれが妻となれば、上手くいくに越したことはない。

 友人として、臣下として、セドリックがそう考えるのは自然なことだった。


「殿下がシオン様を帝国に招き、その上学費まで出すとなれば、エリス様は間違いなく喜んでくださいますよ」

 とは言え、シオン本人が喜ぶかどうかは全く不明だが――と心の中で付け加えながら、セドリックはアレクシスに書類の束を差し出す。

 主人の恋路は大いに気になるところだが、そろそろ仕事に戻ってもらわなければならない。

「ところで殿下、こちら頼まれていた建国祭当日の皇族方の移動ルートと、警備担当者の名簿リストです。ご確認を」
「ああ、そうだったな。まったく、舞踏会が済んだと思ったら次は建国祭か。毎年のこととはいえ面倒なことだ」

 アレクシスは書類を受け取ると、煩わしげな顔で、それでも順に目を通していく。
 ――が、半分ほどチェックしたところで、なぜか手を止めてしまった。

「殿下?」

 何か問題でもあったのだろうか。
 そう思ってアレクシスの手元を覗き込むと、そこにはよく知った名前があり――。

(リアム・ルクレール? ――あっ)