セドリックはそれを聞き、驚いたように眉を寄せる。

「国立公務学院と言えば、キャリア官僚を育成するエリート養成機関……。あそこは数ある高等教育機関(グランゼコール)の中でも、帝国貴族しか受け入れない生粋(きっすい)の純血校でしょう。そこにシオン様を入れられるということは――」
「ああ。兄上は、卒業後もシオンをこの国で囲うつもりだろうな。しかも、学費含めた滞在中の費用は、すべて俺の私費から出すことになったというし」

 アレクシスは苛立ちに顔をしかめ、天井を仰ぎ見る。


 グランゼコールとは、帝国内に二百ほど存在する高等教育機関のことである。

 理工系を中心に、政治・経済・軍事・芸術に至るまで、職業と関連した諸学について最高クラスの教育を受けることができるエリート養成機関だ。
 一部の機関を除き全帝国民に門戸が開かれており、これらの機関に入れた者は各分野での将来が約束される。

 クロヴィスはシオンを、その中でも最も(くらい)の高い国立公務学院に入れると言ったのだ。
 それも、アレクシスの金を使って、である。


「殿下の私費で……ですか。なるほど」

 セドリックはその意味を理解して、感嘆に近い声を上げた。

「つまり、シオン様に帝国内での地位を約束すると同時に、殿下から恩を売った形にするということですね。何ともクロヴィス殿下らしい采配ではないですか。してやられましたね」
「お前、面白がっているな?」
「まさか、滅相もありませんよ。私はただ、これが殿下とエリス様を結ぶ、いいきっかけになればと思っただけです。結局未だに、エリス様には思いを伝えられていないのでしょう?」
「…………」

 そう。セドリックの言うとおり、アレクシスは自身のエリスに対する気持ちを自覚したのはいいものの、未だ想いを伝えられていなかった。