「――は? 兄上、今、何と……」
宮廷舞踏会から一月がたった、六月末のある日の午後。
クロヴィスの執務室にひとり呼び出されたアレクシスは、思わず耳を疑った。
クロヴィスが突然「シオンが我が国に留学することが決まった」――などと言い出したからである。
◇
そもそも一ヶ月前、舞踏会が終わった翌日のこと、アレクシスはクロヴィスから「二人は本国に送り返した。お前が憂うことはない」と説明を受けていた。
アレクシスはそのあっさりとした結末に多少の疑問を抱いたものの、「兄上がそう言うのなら」とそれ以上言及しなかった。
つまり、その話は終わったと思っていたのだ。
その後今日までの間も、クロヴィスは一度もジークフリートやシオンの名を口にしなかったし、エリスの方も「シオンに手紙を書いてもいいでしょうか?」と尋ねてきたくらいで、他には何も言ってこない。
だから、アレクシスは仕事の忙しさと相まって、シオンのことをほとんど忘れていたのである。
「それがいきなり留学だと? くそっ、兄上め……!」
クロヴィスの執務室から戻ったアレクシスは、ソファにぐったりと背中を預け、悪態をつく。
「いったいどういうことです?」と説明を求めるセドリックに、アレクシスは先ほどのクロヴィスとのやり取りをそのまま説明した。
「シオンのことは終わったはずじゃなかったのか」と問いただしたアレクシスに、クロヴィスが返した内容は、以下の通り。
「きっとお前は反対するだろうと思って黙っていたんだが、実は舞踏会の後、ジークフリート王子とエリス妃の弟――シオンと協議した結果、『我が国でシオンを受け入れる』のがベストだという結論に至ってな。ああ、断っておくがこれは私の提案ではない。言い出したのはジークフリート王子だ。エリス妃の引き渡しに応じてもらえないなら、シオンをエリス妃の側に住まわせてやってくれないか、と。なかなか肝の据わった男だった」
そう言って、思い出し笑いのような声を漏らしたあと、クロヴィスは更にこう続けた。
「とは言え、受け入れ先の問題もあるからな。一旦保留にして方々に確認を取ったところ、国立公務学院で受け入れる方向で話がまとまった。というわけだから、義兄としてよく面倒をみてやるように」――と。