――すると、そのときだった。


 何の前触れもなく、パンッ、と空気を切り裂くような音が大きく鳴り響き――三人は揃って動きを止めた。

 その音が銃声とよく似ていたからだ。
 ――だが幸いなことに、それは銃声ではなく、ただの拍手だった。

 三人が音のした方に顔を向けると、そこに立っていたのは第二皇子のクロヴィス。
 クロヴィスは、武装した側近と灯りを携えたセドリックを引き連れて、胸の前で両手を合わせながら、呆れた様に三人を見据えていた。


「やめなさい、君たち。ここは王宮だよ」

 クロヴィスの声はいつも以上に落ち着いていた。
 まるで幼い子供の喧嘩をやんわりと注意するかのごとく、冷静な声だった。

 けれどその瞳は氷の様に()てついていて、確かに怒っていることがわかる。

「兄上、なぜここに……」
「セドリックに呼ばれてね。大方説明は受けたが……なるほど、確かにこれは穏やかじゃない」

 クロヴィスはまず地面に横たわるエリスに視線を向けてから、続いてジークフリートとシオンの顔を順に見やった。

 すると、まるで蛇に睨まれた蛙のように、二人は一瞬で口を閉ざした。
 ジークフリートはピクリと眉を震わせ黙り込み、シオンも唇を固く引き結んだのだ。


(相変わらず、兄上の眼光は恐ろしいな)


 ――クロヴィスの絶対零度の眼差し。

 普段は穏やかな彼だが、ほんの極たまに、その青い瞳に静かな殺気を湛えることがある。

 アレクシスの怒りが動であるとするなら、クロヴィスは静の怒り。
 アレクシスを燃え盛る炎にたとえるなら、クロヴィスは極寒の氷雪(ひょうせつ)。それも、空間ごと氷漬けにしてしまいそうな。

 相手の心を一瞬で凍らせ、同時に畏怖を抱かせる。
 何人(なんびと)たりと口答えは許さない――そういう空気を、今のクロヴィスは(まと)っていた。