アレクシスは、怒りに任せてジークフリートの胸倉に掴みかかる。
 相手が他国の王子だろうとお構いなしに。

 すると、ジークフリートは悪びれもなく微笑んだ。

「僕はただ、親切で教えてあげただけだよ。彼があんまり姉を恋しがって可哀そうだったから。"アレクシスには好きな人がいた。どうせ政略結婚なら、お姉さんは返してもらえばいいんじゃない?"って」
「お前……!」
「だってそうじゃないか。君より、彼の方がずっと彼女を必要としているよ。いっそ哀れなくらいに」
「――ッ」

 ジークフリートは、アレクシスに胸倉を掴まれたまま、それでも笑顔を崩さない。

「アレクシス、君は知っていたかい? シオンは六つのときに母親を失くして、その後まもなく僕の国に捨てられたんだ。表面上は留学と銘打ってはいるけど、もう十年も国に戻っていない。彼の家の当主は実の父親だが、入り婿でね。正当なる後継者の彼が邪魔で、廃嫡しようと目論んでいる。それでも彼は、祖国に残るエリス妃のために必死に勉学を重ねてきたんだ。健気な話だろう?」
「……ッ、だからといって――!」
「それだけじゃない。祖国には継母と腹違いの娘がいて、エリス妃はそれはそれは酷い扱いを受けていたそうだよ。それでも彼女は王太子の婚約者であるということを誇りに、必死に生きてきたみたいだけど……蓋をあけたらこれだろう? 婚約者には捨てられ、君の様な男の元に嫁がされる。なんとも悲劇的じゃないか」
「……っ」
「だが、君が彼女を手放せばすべて解決だ。離れ離れだった姉弟は再会し、永遠に幸せに暮らす。悲劇が喜劇に変わる瞬間だ。――どうだい? 素晴らしいだろう?」