ジークフリートに連れられていった中庭に、シオンはいた。
月明りだけが辺りを照らす、静かな中庭。その中心にある噴水の縁に腰かけて、シオンは神妙な顔で俯いていた。
(本当にシオンだわ)
記憶の中のシオンに比べ身体は大きく成長しているが、あれはシオンで間違いない。
ここに来るまでジークフリートに懐疑的な思いを抱いていた彼女だが、はた目にも肩を落としたシオンの背中を見て、一気に警戒心が消え失せる。
ジークフリートから「行っておいで」と優しい声で促され、エリスは芝生を踏みしめた。
けれど、よほど深く考え事をしているのか、シオンはエリスに気付かない。
そんなシオンに、エリスはそっと声をかける。
「……シオン?」
するとシオンはハッと目を見開いて、ゆっくりと顔を上げた。
その顔がエリスの方を向いて、泣き出しそうに歪む。
次の瞬間、シオンの口から洩れる、縋るような声。
「姉さん……ッ!」
――と、そう呼ばれたと思ったら、気付いた時にはシオンに抱きしめられていた。
すっかり大人の男に成長した弟の腕の中に、彼女の身体はすっぽりと納められていた。
「会いたかった……姉さん……」
エリスの耳元で囁かれる、聞き慣れないシオンの声。
それが声変わりのせいだと気付くまでに、エリスは数秒の時間を要した。
「シオン、大きくなったわね。もうすっかり大人だわ」
「――っ」
「わたしも会いたかった。ごめんなさいね、手紙、出さなくて……」
「……ほんとだよ。僕がどれだけ心配したか……きっと姉さんにはわからない」
シオンの両腕が、エリスの身体を更に強く抱き寄せる。