(きっと侍女たちは理由を知っているんだわ。でもどうして教えてくれないのかしら。やっぱりわたしが原因だから?)
エリスはどんどんと不安に陥っていった。
それを表に出すことはなかったけれど、アレクシスとの距離がようやく縮まっていたと思っていた矢先のことだったから、正直落ち込んだ。
そんなある日、十日ぶりにアレクシスが「今日は早く帰る。夕食を共にとろう」と言ってくれたものだから、エリスは内心とても安堵したのだ。
避けられていると思っていたが、勘違いだったのかもしれない。きっと本当に仕事が忙しかっただけなのだ。
今夜はゆっくり食事をしてもらおう――と、マリアンヌから聞いた、アレクシスの好物のミートパイを手ずから焼いた。
だがその日の夕方、アレクシスから届いた報せには、「今夜も遅くなる」という短い一言。
その報せを読んだエリスは、気付けば手紙をぐしゃりと握りつぶしていた。
自分でもどうしてそんなことをしたのかわからない。
けれど、酷く裏切られたような気分になったのだ。
(こうなったら、帰るまで待っててやるんだから)
意地になったエリスは、食堂で二時間待ち続けた。
アレクシスが帰ってきたら、どれだけ待たされても笑顔で出迎える健気な淑女を演じるのだ、と心に決めて。
だが、ようやく帰宅したアレクシスがエリスの前に差し出したのは、このネックレス。
アレクシスの帰りが遅かったのは、ネックレスを用意していたからだったのだ。