(流石に働かせすぎたか。――そう言えばあいつ、昔はよく熱を出していたな)

 アレクシスは幼いころのセドリックを思い出す。

 アレクシスとセドリックは乳兄弟で、家族同然に育ってきた。幼いころの記憶の中には常にセドリックがいるし、ランデル王国へも共に留学した。

 セドリック本人は口にしないが、もともと身体があまり丈夫ではないセドリックが軍人になったのは、アレクシスの側にいる為だ。
 その忠誠心は母の愛より深いと断言できる。

(まぁ、そもそも母は俺のことなど愛していなかっただろうが……。ともかく、セドリックには数日休みを与えなければな)


 ――アレクシスがそんなことを考えていると、不意に馬車が停まった。
 どうやら宮に着いたようだ。

 化粧箱を片手に馬車から降りると、侍従が出迎えてくれる。

「お帰りなさいませ、殿下」
「ああ。妃はもう休んだか?」
「いいえ、まだ。エリス様は食堂で殿下を待っておられます。夕食を共にされると仰って」
「――! まさかずっと待っているのか?」
「はい。二時間ほど前からでしょうか」
「――っ」

 その言葉に、アレクシスは言いようもなく胸が熱くなるのを感じた。
 普段は着替えてから食事をするところだが、その時間すら惜しいと思った。
 こんな感情は生まれて初めてだった。

 気付いた時には、食堂の扉を開けていた。

 するとそこには「お帰りなさいませ、殿下」――と、いつものように微笑んでくれるエリスの姿。