悪いのは自分ではない。
 そうは理解していても、自分のせいで空気を悪くしてしまったことに、エリスは責任を感じえなかった。
 来なければよかった、と、自己嫌悪に陥るほどには。

「……わたくし、おいとまを……」

 エリスは呟く。もう、帰ってしまおうと。
 反論するのも、肯定するのも、嫌味を返すのも、彼女にとっては億劫でしかなかったからだ。

 ――が、そんなとき。
 身を翻そうとするエリスの行動を遮るように、険悪な空気を一瞬で吹き飛ばす陽だまりのような声が響き渡った。


「あら、エリス様。来てくださったのね。嬉しいですわ」
「――!」


 刹那、ざわりと空気がどよめいた。 
 令嬢たちが口々に、「マリアンヌ様」と呟く。

 ――そう。彼女こそがこのお茶会の主催者、第四皇女マリアンヌだった。
 金糸のように眩い髪に、泉のように碧い瞳。透き通るような白い肌。そして、たおやかな仕草。おまけに声まで美しい。

 どこをとっても皇族らしい、噂に違わぬ美しいマリアンヌの姿に、エリスは思わず目を奪われた。

 マリアンヌはそんなエリスに優しく微笑みかけて、そのあと、テーブルに座る一人の令嬢を見定める。
 そして、昂然(こうぜん)と言い放った。

「あなたのさっきの発言、わたくしはちゃんと聞いていたわ。この方を侮辱するということは、わたくしたち皇族を侮辱するのと同じ。今すぐ出ていきなさい。あなたには、今後一切わたくしのお茶会に出入りすることを禁じます」
「――!」

 瞬間、さあっと令嬢の顔が青ざめる。
 けれど彼女はなす術もなく、黙って会場から出ていった。


 マリアンヌはそれを見届けると、空気をリセットするように、二度大きく手を叩く。
 そして何事もなかったかのように美しく微笑んで、お茶会の再会を宣言したのだった。