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時刻は夜十時を回っている。灯りの消えた部屋に差し込むのは、わずかな月明りのみ。
そんな薄暗い部屋のベッドの中で、エリスはアレクシスとのやり取りを思い出していた。
「……あれでは、まるで別人よ」
そう。まるで別人のようだった。
今日のアレクシスは、初夜のときとは違い自分をちゃんと見てくれていた。
あの日のようにキツく当たったり、冷たい視線を向けることもなかった。
それどころか、自分の気持ちを尊重する態度を見せたのだ。
伽をしないと言ったこともそうだが、食事の後に渡された第四皇女からのお茶会の招待状も、「出席するかは君が決めたらいい。欠席しても不利益はないようにする」と言ってくれた。
とは言えエリスは、出席すると答えたけれど。
(ただ恐ろしいだけの人だと思っていたのに……)
本当は、優しいところもあるのかもしれない。
エリスはゆっくりと瞼を閉じる。
そうして、静かに眠りに落ちていった。