「……え?」

 エリスは耳を疑った。

 そもそも、いったい何に謝られているのかわからなかった。
 それに帝国の皇子であるアレクシスが自分に謝罪をするなど、考えられないことだ。

 茫然とするエリスに、アレクシスは繰り返す。

「悪かった。伽のこと……手荒に扱ってすまなかった」
「……っ」
「君はもう知っているかもしれないが、俺は女が苦手なんだ。その上俺は君を"乙女ではない"と誤解していた。……それで、あんなことを」
「…………」
「だからといって許されることではないと理解している。許してほしいとも思っていない。ただ……謝っておかねばならないと。……怖い思いをさせて、本当にすまなかった」

 心から後悔しているように、エリスを見つめるアレクシスの瞳。
 その眼差しに、エリスは悟る。

 この人は、本気で謝ってくれている――と。

 だからと言って許せるわけではない。
 あの夜の恐怖が無かったことになるわけではない。

 それでも、アレクシスは心から悪いと思って、こうして謝ってくれている。

 家族にもユリウスにも裏切られてきたエリスにとって、それはとても大きなことだった。

「……殿下、わたくしは……」

 けれどそんなアレクシスを前にして、エリスの脳裏に過ったのは懐かしいユリウスの顔で――十年を共に過ごし、支え合ってきたかつての恋人で。

 エリスは、唇をぎゅっと噛みしめる。

 本当は、ユリウスにこうして謝ってもらいたかった。

「全部僕の誤解だった。本当にごめん。許してほしい」――そう言って抱きしめてもらいたかった。

 けれど、もうそんな日は来ないのだ。