午後八時を回った頃、エリスはダイニングにてアレクシスと夕食を共にしていた。
だが食事が始まって三十分が過ぎた今も、二人の間に会話らしき会話は一切ない。
二人は十人以上掛けられる長いテーブルの端と端に座り、無言でナイフとフォークを動かし続けていた。
(どうしましょう……。わたしから話しかけた方がいいのかしら。でも、余計なことを言って前回のように怒らせてしまってはいけないし……)
――気まずい。料理の味がしない。
部屋の空気の重たさに、胃が痛くなってくる。
エリスは憂鬱な気持ちで、それでも淑女らしくピンと背筋を伸ばし、料理を口に運ぶ。
けれどしばらくして、メインの肉料理が運ばれてきたときだ。
アレクシスが不意にこんなことを言う。
「君は、料理をするらしいな」と。
「……え?」
エリスは驚いた。
この一ヵ月、一度も宮を訪れていないアレクシスがどうしてそのことを知っているのだろう、と。
それに、今アレクシスは自分のことを「君」と呼んだ。前回、初夜のときは「お前」呼びだったのに――。