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 結婚式当日、アレクシスはエリスを一目見て、胸が高鳴るのを感じた。

(……似ている)

 そう。似ているのだ。
 かつて自分が唯一触れても平気だった記憶の中の少女に、エリスはよく似ていた。

 アレクシスが十二歳のとき、隣国のランデル王国に滞在していた際に出会った少女。
 湖に落ちた自分を救ってくれた、愛らしく(たくま)しい年下の女の子。

 亜麻色の髪と、瑠璃色の瞳。肩のどちらかに赤い火傷の痕があり、名前は「エリス」。

 当時のアレクシスは帝国語しか話せなかったために名前しか聞き取れなかったが、少女は確かに「エリス」と名乗ったのだ。


「エリス・ウィンザーと申します」
「……っ、……ああ」

 エリスの涼やかな声に、凛とした瞳に、純白のドレスを身にまとった美しいその姿に、アレクシスの心臓がドクンと跳ねた。

 けれど、彼は咄嗟に否定する。――違う、きっと別人だ。本物であるはずがない、と。

(俺が探しているのはランデル王国の人間で、スフィア王国の者ではない。それに、あの「エリス」が異性問題を起こすような女性だと、俺は認めたくない)


 アレクシスは、もう何年も「エリス」を探し続けてきた。
 学生時代にランデル王国に留学したのも「エリス」に会いたいがためだった。

 もしももう一度出会えたら、あのときと同じように彼女に触れてみたい。
 他の女性には嫌悪感を抱く自分が、彼女ならば大丈夫なのか確かめたい、と。

 だが結局見つけることはできず、ようやく諦めがついたところだったのだ。
 それなのに、今さらこんな都合よく会えるなど確率的に有り得ないだろう。


(だが……もし、もし彼女の肩に、火傷の痕があったなら……)