「――っ」
 
 自分を真正面から見つめる、不安と緊張の入り混じった瑠璃色の瞳。
 その眼差しに、アレクシスの心臓が大きく跳ねる。

(ああ、そうだ。十年前も君は今の様な目をしていた。自分が迷子だというのに、一人きりでいた俺を心配してどこまでも付いてきて。湖に落ちた俺を助けるために水に飛び込んで……俺よりもずっと小さい身体で、俺を岸に引き上げたんだ)

 ――ああ、それなのに。

 刹那、次にアレクシスの中に沸き上がったのは、とてつもない後悔と罪悪感だった。

 あの日の少女を見つけた嬉しさ以上に、エリスに対する申し訳なさと自身への怒りで、彼は自分の頬をぶん殴りたい気持ちでいっぱいになった。

(最悪だ。まさかエリスがあのときの少女だと気付かずに、俺はこれまで過ごしてきたというのか?)

 エリスが思い出の少女だと勝手に期待し、落胆し、別人だと思ったまま思いを募らせ、結局は同一人物でしたなどと、間抜けにもほどがある。

(もし今俺が彼女に思いを伝えたとして、過去のことについてはどう説明をする。今さら、湖で君が助けた相手は俺だったんだ、と感謝でも伝えるつもりか?)

 そんなことを言えば、今の自分の気持ちを、過去の思い出に重ねていると思われるのではないか。
 エリスへの恋慕ではなく、命の恩人に対する気持ちを拗らせているだけだと思うのではないか。

 そういった不安が心の中に膨れ上がり、アレクシスはどうしたらいいのかわからなくなった。

 けれどそれでも、アレクシスは心を決める。
 エリスにこの気持ちを伝えなければ、と。

 そうでなければ、本当の意味でエリスの誤解は解けやしない。
 『罰はいかようにも』などと覚悟を見せるエリスの心を開くには、自分の心をさらけ出すしかない。

 ――だから。

 アレクシスはごくりと喉を鳴らし、慎重に唇を開く。

「エリス、聞いてくれ。俺は君に罰を与えようなどと思っていない。侍女を咎めるつもりもない。なぜかわかるか?」

 川でリアムに見せた牽制の意味を、彼女は少しでも理解してくれているだろうか。
 ――いや、この様子ではきっと理解していないだろうなと思いながら、アレクシスはエリスの返事を待たずに、続ける。

「それは、俺が君を愛しているからだ、エリス。君は今さら何をと思うだろうが……俺は君が受け入れてくれるなら、これから本当の夫婦になっていきたいと思っている。――これが今日、俺が君に話そうと決めていた内容だ」と。