「~~ッ!」

(いや、待て、待て待て待て。そんな……まさか、本当に……?)

 確かにエリスは、『あの少女』と名前も外見も同じだ。
 肩の傷も、幼い頃に負った傷だとたった今本人の口から聞いた。

 それだけではない。

 アレクシスは、舞踏会でのジークフリートの言葉を思い出す。
 二ヶ月前、王宮の中庭でジークフリートは言っていた。『シオンは六つのときにランデル王国に捨てられた』と。

(シオンはエリスの二つ年下。つまり、俺の六つ下だ。俺がランデル王国に滞在していたのは十二のときだから、エリスがシオンに同行していたと考えれば、辻褄は合う)

 それに、今日、川岸で兵たちが沸き立っていたことについてもだ。

(ああ、よく思い出せ。あのとき兵たちは何と言っていた? 確か、『見事な泳ぎでした』『どこで泳ぎを習われたのですか』『救助の経験がおありなのですか』と。俺はあれをリアムに掛けた言葉だと思っていたが、そもそもリアムは元海軍所属。リアムの隊員である彼らがそれを知らないはずがない。つまり、あれはエリスに向けた言葉だった、となると……)

 そもそも、アレクシスは今の今まで、エリスはただ、溺れた子供を放っておけずに無謀にも川に飛び込んだのだと思っていた。
 子供の救出活動は主にリアムが行ったのであろうと、そう信じて疑わなかった。

 けれど本当はそうでなかったとしたら。
 子供を救出できるという確かな根拠が、エリスにあったとするならば……。

「…………エリス」
「――っ、は……はい」

 アレクシスはその疑念を解消すべく、エリスに問いかける。

「君は以前にも、溺れた人間を助けた経験があるのか?」
「――え?」

 すると当然、エリスは驚いた顔をした。アレクシスが突然、脈絡のない質問をしたからだ。
 けれどエリスはすぐに、「はい」と控えめに頷く。

「子供のころに一度。川ではなく、湖でしたけれど」と。

 その答えに、アレクシスは今度こそ確信せざるを得なかった。
 目の前のエリスこそが、あのときの少女なのだと。

 探し求めていた彼女は、ずっと、こんなにも近くにいたのだと。