(まさか、本当に殿下自ら傷の手当てをされるなんて……。てっきりわたしは、殿下に糾弾されるものだとばかり……)
最初エリスは、『悪い予感が当たってしまった』と、今にも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
傷の手当というのは口実で、きっとアレクシスは自分を責めるために侍女たちを退室させたのだろうと。傷の数が一つでも違えば、自分を責めたのち、侍女たちに責任を取らせるのだと、そう思ったからだ。
だが、いざ二人きりになってみたらどうだろう。
アレクシスは――相変わらず顔つきは険しいものの――適切な治療を手際よく施していく。
しかもその手つきはどこまでも優しく丁寧で、まるでこれから自分に罰を与えようとする者の行動とはとても思えない。
(もしかして、もう怒っていらっしゃらないのかしら……)
エリスは一度はそう思ったものの、内心すぐに首を振った。
――いいえ、そんなはずはない、と。
(だって殿下は今も全然お話にならないし、お顔も険しいままだもの。わたしに対して怒っていらっしゃるのは、間違いないわ)